今回は、社会保険における「106万円の壁」についての相談です。
これまで配偶者の扶養の範囲内で働きたいという理由から、年収を103万円以内で抑える職員や、130万円未満で抑える職員がいました。今回、とあるパート職員から「年収を106万円未満で抑えたい」という申し出がありました。この「106万円」とは、どのような基準なのでしょうか。
いわゆる「106万円の壁」とは、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の特定適用事業所において、社会保険の加入基準の1つとされているものです。特定適用事業所に該当するか否かは、病院・医院の正職員数(※)によって異なり、申し出のあったパート職員が、本当に年収106万円未満に抑える必要があるかは、状況に応じた判断が必要になります。
1.パート職員が社会保険に加入する基準
パート職員が社会保険に加入する基準は、正職員数(※)が100人以下の病院・医院と101人以上の病院・医院(特定適用事業所)で違いがあります。具体的には以下のとおりです。
正職員の1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が4分の3以上のパート職員が加入。
<特定適用事業所>
以下の3つの基準をすべて満たしたパート職員が加入。
- ①1週間の所定労働時間が20時間以上である
- ②賃金の月額が8.8万円以上である
- ③学生でない
パート職員がいう「年収106万円未満」とは、特定適用事業所の基準の②を年収に換算した額(8.8万円×12ヶ月≒106万円)を指していると思われます。なお、収入の判断は②のとおり賃金の月額で行うため、年収106万円はあくまでも目安の額に過ぎません。
2.106万円の壁と130万円の壁の関係
社会保険には106万円の壁と130万円の壁があるといわれますが、106万円の壁はすでにみたように、特定適用事業所において社会保険に加入すべき基準の1つです。社会保険に加入することで、勤務する病院・医院で保険料を納めることとなります。
一方の130万円の壁とは、年収が130万円以上になることで、配偶者や家族の健康保険の被扶養者や、国民年金の第3号被保険者から外れることを指します。被扶養者や第3号被保険者から外れた場合には、パート職員自身で、国民健康保険や国民年金に加入し、保険料を納める必要が出てきます。
3.変更となる特定適用事業所の範囲
特定適用事業所の範囲は、2024年10月から、正職員数(※)が51人以上の病院・医院まで拡大されます。また、国としては今後、最低賃金を引き上げることにより、これらの壁を意識せずに働けるような環境づくりを進める予定とされています。手取り収入を確保したいパート職員の関心が高い内容のため、その仕組みを理解しておくとよいでしょう。
- ※ 厳密には厚生年金保険の被保険者数で判断します。
本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。